国際信義に反する商標は登録出来ない - グローリア国際知財事務所

国際信義に反する商標は登録出来ない

公序良俗に反するおそれがある商標は、商標登録出来ないのが原則です(商標法第4条第1項第7号)。

知人に、「餡子を使った和菓子に『御座早漏』という印字をしてご高齢の叔母様達に配ったら、面白がって非常に喜んでくれた。」という話をしてくれた人がいましたが、もしこれを商標登録出願したら、おそらくは商標法第4条第1項第7号違反の拒絶理由が下されてしまうと思われます。

しかし、この商標法第4条第1項第7号の拒絶理由は、このような卑猥な商標を拒絶する場合だけではなく、国際信義に配慮したら登録するべきではないような商標の登録を防ぐためにも用いられる、拒絶理由なのです。

具体的には、Anne of Green Gables 事件<知財高判平成18.09.20 平17(行ケ)10349/無効審決維持>という判決例があります。

これは、あるカナダの映画会社が、『赤毛のアン(英語表記:Anne of Green Gables)』をテレビゲームの名前に用いるために商標登録出願したものでした。いったんは特許庁に登録されたのですが、赤毛のアンの著者・モンゴメリーの出身地であるプリンスエドワード島の州政府がこれに異議を唱えて無効審判を請求したため、登録無効となりました。

その後、映画会社は審決取消訴訟を提起しましたが、無効審決を覆すことは叶わず、テレビゲームについての「Anne of Green Gables」なる商標は無効となり、取り消されました。

その理由として、特許庁および裁判所は、公序良俗違反の商標を拒絶するために用いられる商標法第4条第1項第7号を挙げていますが、これは、世界的にあまりにも著名な小説の題名(タイトル)であるAnne of Green Gablesを、一映画製作会社に独占させることを認めたのでは、カナダと日本のあいだの国際信義が損なわれてしまう、という判断からなのでしょう。

しかし、もし仮に、プリンスエドワード州政府が声を挙げなければ、そのまま映画会社の商標になってしまっていたのでしょうね。

これまでにも、他の世界的に著名な文学作品の名称が商標登録されてしまった例が多数見受けられるのが現状のためです。具体的には、「ハムレット」や「マクベス」などは、日本で商標登録を受けている状況です。

今後、世界的に著名な文学作品名(例えば、「罪と罰」とか、「ノルウェーの森」とか?)が商標登録出願されたとしたら、上記事件が持ち出されて、商標登録を受けられない可能性が高いかもしれません。

 

しかし、プリンスエドワード州政府のように異議を唱える人が登場しなければ、その様にはならなかったかもしれません。

法律がより合理的なものに改変され、変化して行くためには、誰かがおかしいと感じることに対して、異議を唱え、判例が蓄積される過程を経る必要があります。

そのためにも、高いコストや手続的負担のせいで、文句を言えたくても言えずに泣き寝入りする人が、少しでも減少する様な、そんな法制度が普及して欲しいものですね。

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